おすすめの本(3)

★★ 心の見える企業―ベンチャー企業とバルーン型組織への誘い ★★
この本は著者の授業を受ける機会があったことから読みました。基本的な経営学の本ですが、ベンチャー企業の、特に組織的な部分にやや焦点をあてているのが特徴です。
 
 ベンチャー企業は小さい企業とは限らない
小さい組織でも官僚的な組織はあるし、大企業でもベンチャースピリットにあふれた企業もあるといいます。本書では、GEやソニーなども例に取り上げ、一概に、組織の大小がベンチャー性を決めているわけではないことを解説しています。また、いわいる経営学の領域にとどまらず、リッカートの組織論や、リーダーシップ論、ビジョンの有用性について説いています。
 
 組織図の描き方がいろいろ出てくる
会社によっていろいろな書き方があることが分かります。組織図をピラミッド型に描いてしまうだけで、社員の意識がそのようになってしまう、ということもあるかもしれません。逆三角形型、放射線状に広がっているもの、著者が提案する風船をいっぱい書く方法、多種多様な書き方は、その会社の文化を示しているのかもしれません。ミンツバーグも従来型の組織図では分類できないような会社が多数あることを述べています。なかなか奥深いです。
 
★★ 問題解決ファシリテーター (1/3)  ★★
高度な問題解決の手法として、ファシリテーションを取り上げ、その技術的な解説をしています。ファシリテーション・アプローチとはいったい何なのか、本書の一番初めに示された例を見るのが一番分かりやすいと思います。この例を今週から3回にわたって紹介します。
 
 ソフトアプローチ、ハードアプローチ、ファシリテーション
ここでは3つのアプローチの例が示されています。ソフトアプローチ(妥協・調整的)、ハードアプローチ(説得・譲歩的)、ファシリテーションアプローチ(協働・創造的)です。ソフト・ハードは悪い例として、ファシリテーションは良い例としてあげられています。
ここでの例での状況は以下の通りです。電子機器メーカーで新製品を発売したところ、当初は売れ行きが好調であった。ところが、急にブレーキがかかり、在庫が予定の2倍の規模に膨れ上がってしまった。そこで、当事者である販売部長、工場長、そして仲介役の経営管理部長の3社が集まって打開策を話し合うことになった。まず、悪い例としてソフトアプローチを紹介します。
 
   [悪い例] ソフトアプローチ (妥協・調整的)
 
工場長: やれやれ、ようやく増産の態勢が整ってきたばかりでどんな顔をして部下に減産を指示したらいいものか。部品によっては6ヶ月先まで発注しているものもあるしなぁ・・・。
 
販売部長: ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、そこを何とかお願いしますよ。今さら売れないものを作ってもみんなが困りますから。
 
経営管理部長: まあどちらも事情がおありでしょうから、ここは腹を割って話をしましょう。そんな先まで部品が手配済みでは困りますね。もう少しどうにかならないでしょうか。
 
工場長: 注文をキャンセルして、部品メーカーを泣かせるしかありませんね。そうしろとおっしゃるのなら、やれるだけやってみますが、キャンセルできなかった分はしっかり作らせてもらいますからね。
 
経営管理部長: せっかく工場サイドがああ言ってくれているのですから、販売部門のほうでももう少し踏ん張ってくれませんかね。
 
販売部長: 強力なライバルの登場で、状況が一変してしまったのですよ。第一線では精一杯頑張っているのですが、それでも限界があります。
 
経営管理部長: ですから、そこを何とかできないか、お願いしているんじゃありませんか。
 
販売部長: 分かりました。そちらの立場もあるでしょうから、今回は思い切って破格の条件を出して有力な小売店に引き取ってもらいましょう。それで品物が動かなくても恨みっこなしですよ。
 
経営管理部長: そういってくれると私の顔も立ちます。じゃあ、お互い良く話し合って、とにかくみんなで解決にむけて頑張りましょう。
 
 問題解決ファシリテーター(2/3)
別の悪い例として、ハードアプローチを紹介します。
 
[悪い例] ハードアプローチ(説得・譲歩的)
 
工場長: ようやく増産の態勢が整ったと思ったら減産しろですって。そんな身勝手な話は到底受けられませんね。発注した部品は全部製品にしてお届けしますから、販売部門の責任で処理してください。
 
販売部長: 予想を超えるライバルの登場で市況が一変してしまったのだから、何も販売のせいばかりではありません。そもそも、生産側がこういう変動に機敏に対応できないから、いつもしわ寄せが在庫となって表れるのじゃありませんか。
 
経営管理部長: まあまあ、まずはお互いの責任範囲を確認することから始めましょう。いつもはどのようなルールで販売部門は工場に注文を出しているのですか。
 
販売部長: 6ヶ月先までの月単位の注文を毎月見直しています。その時に、3ヶ月目までを確定させ、4ヶ月目からは自由に変更できる取り決めになっています。
 
経営管理部長: ということは、事情がどうであれ3ヶ月目までは注文を確定してしまっているのですね。それを今さら要らないというのは筋が通りません。その分は販売部門の責任で処分してもらわなければ困ります。
 
販売部長: 在庫が2ヶ月もある上に、さらに3ヶ月分を買えというのですか。分かりましたよ、安値でたたかれて市場が荒れても知りませんよ。その代わり、これ以上は1台たりとも要りませんからね。
 
工場長: それは困りますよ。だって、リードタイムの長い部品は既に6ヶ月先まで発注しているのですから。そうしないと急な増産への対応が間に合わないのは良くご存知のはずでしょう。
 
経営管理部長: いや、それはおかしいですね。先ほどのルールによると4ヶ月目以降のオーダーは確定ではありませんから。工場側が見込み発注をしたのなら、そこはキャンセルするなり、破棄するなり、そちらの責任で処理してもらわないと理屈に合いません。
 
 問題解決ファシリテーター(3/3)
最終回は良い例としてファシリテーションアプローチを紹介します。
 
[良い例] ファシリテーションアプローチ(協働・創造的)
 
経営管理部長: 責任論は後でゆっくりやるとして、お互いどうやったら問題が解決できるかに絞って議論しましょう。まず販売サイドにお聞きしますが、何が売れ行きに悪影響を与えたのでしょうか。
 
販売部長: 当初はとても好調に推移していたのですが、予想を超える強力なライバル商品が表れ、完全にシェアを食われてしまったのです。
 
経営管理部長: 全世界のすべてのチャネルでそうなってしまったのですか。
 
販売部長: 日本はもう手遅れで、どうしようもありませんね。米国もほとんどやられてしまいましたが、一部に我々が強いチャネルが残っています。欧州は、まだライバル商品が販売されていなくて、多少の時間的な余裕があります。
 
工場長: 欧州がまだいけそうなら、日本向け製品のパッケージを入れ替えて、欧州むけに仕立てましょうか。ラインの人間を遊ばせておくくらいなら、少しでも在庫をはくために、徹夜してでもやらせますよ。
 
経営管理部長: それは名案ですね。すぐにやりましょう。ところで、ここで生産を打ち切ったとしたら、どれくらいの部品が余ってしまいますか。
 
工場長: 確注分の3ヶ月が掃けたとしても、見込み発注してしまった部品がさらに3ヶ月分残っています。いまさらキャンセルするわけにもいかず、このままでは廃棄するしかありません。
 
経営管理部長: それは最後の手段ですね。他の製品に転用するとか、別の製品に仕立てるとか、販売部門で何かアイデアが出せませんか。
 
販売部長: だったら、その部品を使って、機能を削ぎ落とした廉価版が作れませんか。価格を一段下げれば、チャネルによってはポジションを取り戻すことが出来るかもしれません。
 
経営管理部長: それは検討してみる価値がありますね。大至急、どこまで機能とコストを削減できるか両者でつめてください。
 
 協働・創造的な解決手法
このような協働・創造的な解決手法は、激しい外部環境の変動に対応するのに向いた手法だといわれています。(逆に言えば、外部環境が安定的な場合は必要ないとも言われています。)この例でも、前週までの例では、新たな解決方法を見出せていませんが、今週の議論では前向きな新たな解決方法を見いたしています。運命の分かれ道は、経営管理部長の「質問」です。決して工場長や販売部長の能力ではありません。まさに、「どのように人の話を聴くか」で、これだけ結果が変ってしまうのです。