おすすめの本(2)

★★ 使える理論の使い方の論理 ★★
マーケティングの学術研究は近年急速な方向転換が行われつつあります。そのため論文だといろいろあるのですが、本になるとなかなか良いものがありません。この本も一般的には手に入れづらい本なのですが、最近のマーケティングの考え方を述べている珍しい本です。
 
 実務者が書いた本
著者は実際にBtoBマーケティングを行っている実務家です。マーケティングをどのように行えば成果が出るのかを考えていくうち学術界から学ぼうとし始めました。しかしさまざまな説が乱立する中で、良さそうなものを選ぶのは容易ではありませんでした。そこでとりあえず“共感できるもの”として選んできたのが明治大学の上原・大友理論でした。その理論をどのように現場で実践し、どんな成功と失敗があったのかが書かれています。学者でなく実務家が実際に行ったマーケティングをもとに書かれていますので、背景知識が無くても読めるようになっています。著者の講演を実際に聞いたことがあるのですが、かなり熱い人です。
 
 顧客への価値提供
顧客への価値提供、顧客が抱えている問題解決、もっと言えば顧客の願望の実現。これらを基本的な考えとしています。ただし、顧客は自分達がどのような価値が欲しいのか、どうやったら問題が解決するのか、もっと言えば何が問題なのか何が願望なのかが分かっていない場合も多いのです。なので、顧客自身も気付いていない願望を分析して解決策を提示してあげること、それが、全ての根源的なものであり、それを外してしまうと他の技術的なこと、販売チャネルだったり価格設定だったり品質だったりとかでは挽回できないということを述べています。実は、私がこれまでのコラムで書いてきたマーケティング的なことはこの本が元ネタになっているものばかりなんです。
 
ハーバード大学が月刊で出版しているビジネスに関する論文集の日本語版です。ハーバード大ではない人の論文も積極的に掲載していて、ハーバードなどの一流ビジネススクールを一貫して批判しているミンツバーグの論文などもキチンと掲載していることも好感が持てます。もっとすごいのはビジネススクールを批判した特集号もあり、自己批判精神を忘れない彼らを見ていると、ビジネススクールの未来もそんなに暗くはないなと思いました。
 
 最先端な考え方が垣間見られる
近年の市場環境の変化の速さは凄まじいものがあります。いろんな人たちが「今ってこんな感じだよね」と考え始めてから一般書籍になるまでには結構時間がかかります。そうこうしているうちに「違う今」が来てしまいます。5年前とならば一昔。5年前と同じ働き方をしていたとすれば100%時代に取り残されています。この本はいろんな人が思考しはじめてから比較的早く文章化されます。逆に言えばチャレンジングなものが多いので、ハズレも多いです。90%以上ハズレ記事だと思います。ただ、時々ある「なるほど」と思える記事は、先進的で、時代においていかれないためにとても有用です。
 
 使いこなしが難しいかもしれない
全ての記事に「なるほど」と思ってしまう人には向かないかもしれません。学者達の主張を見当違いかどうか見極める能力が読者に必要です。その能力があることが前提に書かれています。私も正直、何なのか良く分からない論文もけっこうあります。それを「良いかどうか良く分からない」と認めほっとくことができないと、この本を読むのは逆効果かもしれません。
 
★★ メンタルヘルス・マネジメント検定試験公式テキスト 2種 ★★
資格試験の勉強用の本です。メンタルヘルス・マネジメントというのは、簡単に言えば、働く人たちのこころが健康であるようにするための活動です。この検定は1種、2種、3種がございますが、3種は自分のこころを健康に保つための知識、2種が直属の部下がこころの健康をたもつための知識、1種は会社全体の従業員のこころの健康をたもつための知識です。2種と3種はマークシートのみでキチンと勉強すればほぼ合格できる試験ですのでご興味ある方は是非受けてみてください。ちなみに、試験会場には会社から強制的に受けさせられた中間管理職と思われる方が多くいらっしゃいます。中間管理職に高度な管理能力を求める会社は、この資格を必須化しているようで、とれないと管理職になれない会社もあるのでしょう。
 
 結局はマネジメント全般に関わってくる
良い精神状態で人を働かせるためには、人のマネジメントの基本が分かってないとできません。この本の良いところは、最低限知っていなければならない管理職のための知識が網羅されています。逆に、メンタルヘルス分野以外で、管理職に必要な知識が網羅された分野を、私はみたことがありません。ただ、どうでもよいこと(保健所の所轄官庁など)も丁寧に書かれていたりするので、そのあたりを適宜、読み飛ばして読むことが必要です。(試験に合格するためにはここも暗記する必要がありますが。)
 
 しかしながら十分ではない
必要最低限なことを網羅しているとはいえ、知っていることと実践できることは違いますし、もっと知る必要がある知識もあります。この本は「これを知らないといくらなんでもまずい」というレベルのもので、管理職がうまく出来るかどうかはもっと知識と訓練が必要になることは間違いないと思われます。
 
★★ マーケティングリサーチ・ハンドブック ★★
顧客がどんなことを望んでいるのか?もっと言えば、顧客は誰なのか?企業が顧客へどんな価値を提供しようか考えるときの調査をマーケティングリサーチとよびます。この本では具体的な調査手法を述べています。代表的な定量分析にはアンケートをとるにはどうしたらよいか?アンケート項目はどうやって決めればよいか?といったことが書かれています。アンケートひとつをとってもとても奥が深いことが良く分かります。
 
 定性調査が重要
アンケートのような定量調査も重要ですが、定量調査は調べられる範囲が狭く、定量がゆえに逆に結果がハッキリしなかったり誤解を招く結果に終わったりします。また、設計がうまくいかなかった場合(選択肢が不適切で答えがその他に集中するなど)使い物にならないなど欠点も多くあります。実は、マーケティングリサーチで本当に重要なのは定性分析のほうです。こちらは行うにはかなりの労力が必要ですが、有益な思わぬ情報が手に入る場合が多いです。集団インタービューやディスカッションをさせるなどの手法が良く用いられます。キチンとしたマーケティングリサーチは必ず定性調査が伴っています。以前紹介した、自動車の顧客分析も定量・定性両方の調査を行っていました。http://www.jama.or.jp/lib/invest_analysis/four-wheeled.html
 
 最強のリサーチは営業の人がその場で聞きだすこと
とはいえもっとも強力な調査は営業の人がその場で聞きだすことです。世の中にはひたすら客の話を聞く営業という戦略もあるようです。現場で何を聞くのか、聞いた情報をどのように蓄積するのか、自称熱血営業だけが売りの100年以上続く老舗商社の営業マンの話を聞いたことがありますが、まさに現場で聞いた情報のデータベース化が命綱なのだそうです。