人間尊重の心理学 読書メモ1

カール・R. ロジャーズ  '人間尊重の心理学―わが人生と思想を語る' 
の読書メモその1です。

(p.8)
友人があることに関して長距離電話をかけてきました。話し終わって受話器を置いたのですが、その時の彼の調子が私を揺り動かしたのです。話し合った事柄の背後に、内容とは全く関係のない失望、落胆を感じ取っていたのです。それがあまりに強烈だったので彼に手紙を書きました。「私が言おうとしていることは誤りかもしれないが、もしそうだったらこの手紙はゴミ箱にほうりこんでくれたまえ。実は、受話器を置い途端、君が失望と苦痛を味わっているように聞こえてきたのだ。本当に絶望していると。」そして、私が彼に対して感じていること、彼の状況に関して役立つと思われる私自身の気持ちを書きました。少々馬鹿げているかもしれないとの不安を抱いて投稿しました。すぐに返信を受け取りました。彼は、誰かが彼を聴き取ったことを喜んでいました。私が彼の声の調子から聞き取ったことは正しかったのです。私は真の彼を聞き取り、真のコミュニケーションを持てたことが嬉しく思われました。この例のように、言葉がある事柄を伝え、声の調子が全く別のことを伝えていることは多いものです。
(中略)
私は次のような空想をします。地下牢に閉じ込められたまま、「聞こえる人はいませんか?」「誰かそこにいませんか?」とモールス信号を打ち続けていて、ある日ついに「はい」というかすかな応答を聞いたという空想です。その応答が彼を孤独から救いだすのです。彼は再び人間となるのです。今日、数えきれない人々が孤独な牢の中で生きています。皆さんがその牢から流れてくるかすかな信号を鋭く聞きとめてやらなければ、外の世界の存在を知らない人々がいるのです。