人間尊重の心理学 読書メモ3

カール・R. ロジャーズ  '人間尊重の心理学―わが人生と思想を語る' 
の読書メモその3です。

(p.104)
 人間中心アプローチが人間並びにあらゆる生命体に基本的信頼を置くことは実践、理論、研究において明確です。それを証明する多くの理論があります。あらゆる生命体は、各水準において内在する可能性を建設的に開花させようとする基本的動向を所有していると言うことができます。人間においても、より複雑で、より完全な発達に向かう自然の傾向が存在します。これを表現する用語として一番良く使用されるものは「実現傾向」であり、これはあらゆる生命体に存在します。
(中略)
 少年時代に食用とするジャガイモを入れていた地下室の貯蔵箱を思い出します。それは小さい窓から二メートルも地下に置かれていました。条件は全くよくないのにジャガイモは芽を出そうとするのです。春になって植えると出くる緑の健康な芽とは似ていない青白い芽を出すのです。この悲しいきゃしゃな芽は窓から漏れてくる薄日にとどこうと、60センチも90センチも伸びるのです。この芽は奇妙な形ですし無駄ですが、私が述べてきた生命体の基本的志向性の必死の表現と見ることができます。
(中略)
(恐ろしくゆがんでしまった人生を持つ)これらの人々は、異常でゆがみ、人間らしくない人生を展開させてしまったひどい状況にあります。けれども、彼らの中にある基本的志向性は信頼することができます。彼らの行動を理解するてがかりは、彼らは彼らに可能な方法で成長と適応に向かってもがいているという事です。健康な人間には奇妙で無駄と思えるかもしれないけれど、その行為は生命が自己を実現しようとする必死の試みなのです。この前進的傾向が人間中心アプローチの基底なのであります。

(p.108)
 かくして、あらゆる動因の基本が生命体の広範な行動、広範な要求への反応の中に自ら表れているのかも知れません。確かなのは、ある特的の基本的要求は、他の要求が明確になる以前に少しでも満たされていなければならないということです。従って、生命体が自己を実現する傾向が、ある時点では食物や性的満足を求めることであるかもしれません。しかしながら、その要求がどうしようもないほど大きくない限り、自己の尊厳を低めるのではなく高める方向で満たそうとします。また、生命体は環境との相互関係において他者の実現をも求めます。環境を探求したり変化させようとしたりする要求、行動を起こそうとする要求や自己探求の要求、これらはすべて実現傾向の基本的表出であります。
 すなわち、生命体は絶えず探求し、何かを始め、何かに到達しようとしているのです。人間という生命体においてはひとつの中心的活動源があります。この源は生命体全体の有力な機能です。簡単に言うと、生命体の維持だけではなく、その向上を含むような実現、充足へのっ志向であります。