人間尊重の心理学 読書メモ4

カール・R. ロジャーズ  '人間尊重の心理学―わが人生と思想を語る' 
の読書メモその4です。

第8章はエレン・ウエスト(Ellen West)という実在人物の事例でしたが、すばらしい内容でした。みんなに全文紹介したいくらいです。難解な概念をひも解く実例としてこんなに分かりやすいものがあるとは驚きでした。何の予備知識がなくても読めるのに、「孤独」という難解な概念を大変よく理解できます。

(p.142)
孤独に対する見方は様々ですが、私はひとりぼっちだという感覚の二要素に焦点を当てたいと思います。(中略)第一は自己、即ち体験しつつある有機体からの疎隔です。この基本的亀裂の中で、体験しつつある有機体は経験の中にある意味を感じ取っていますが、意識的自己は他の意味に執着しています。なぜならそれこそが人から愛され受け入れられるあり方だったからです。こうして、私たちは潜在的に宿命的分裂を所有しているのです。ひとつは意識の中で知覚されることによって習慣となっている行動である、またひとつは自己の内において自由にコミュニケーションできないために否定され無視されたまま、肉体という全存在によって感じ取られる意味です。

(p.148)
「私は知らない人物である自分と向き合っている。私は自分が恐ろしい。」(中略)「ある点で私は正気でない。本能にさからう戦いの中で滅びようとしているのだもの」(中略)「私は自分というものを全く受動的に、二つの敵対する力がお互いに闘う舞台のように感じます。」(中略)「私は孤立している。ガラスのボールの中で、ガラスの壁を通して人々を見ている。叫ぶけれど、誰にも聞こえない。」

(p.149)
乳幼児期、私たちは経験の中で生き、それを信頼しています。赤ん坊の空腹時に食物を得ようと努力すべきか否かを疑ったり迷ったりはしません。意識とかかわりなく自己を信頼して生きています。けれどもある年齢になると、親か誰かが「そんな風に思うのは、いやだよ」と効果的に告げます。そこで、感じていないことを感じるべきだと思い始めます。そして、こう感じるべきだという形で自己を築きます。自己が実際体験しつつある姿を直視するのは時たましかありません。(中略)彼女は自分であることをあきらめたのでした。(中略)彼女は自分がどう感じ、いかなる考えを持っているかがわからなくなっていました。これは最も孤独な状態です。自律的生命体からの完全な分離と言えます。