人間尊重の心理学 読書メモ2

カール・R. ロジャーズ  '人間尊重の心理学―わが人生と思想を語る' 
の読書メモその2です。

(p.19)
私は、肯定的感情を提供したり受け止めたリすることに恐れを感じなくなってから、他者をより尊重するようになりました。また、他者を尊重することは難しいことであると考えるようになりました。自分の子供に対してすらそうなのです。子供たちをこころから尊重して愛するよりも、彼らを思いのままに動かして愛していることがあまりに多いのです。私が最も充実を感じるのは、私が日没の美しさをこころからいとおしむように、目の前にいる人をこころからいとおしんでいる時です。その人をありのままに受け止めるなら、日没の景色と同じように素晴らしいものです。私たちが日没を心からいとおしむのは、太陽を思い通りに動かせる等と思ってもみないからでしょう。夕焼けを見ながら、「右側のオレンジ色をもう少しぼかして、下のほうの紫をもう少し広げて、雲はバラ色にしたいな」等とつぶやくことはありません。日没を自分の意思で動かそうとは思いません。日が沈む様を、畏敬をこめて見守ります。これと同じように、同僚、息子、娘、孫たちを見守るのが私は最高に好きなのです。こういうあり方は東洋的態度なのだと思います。私にとっては、それが最も満足できることなのです。

人間尊重の心理学 読書メモ1

カール・R. ロジャーズ  '人間尊重の心理学―わが人生と思想を語る' 
の読書メモその1です。

(p.8)
友人があることに関して長距離電話をかけてきました。話し終わって受話器を置いたのですが、その時の彼の調子が私を揺り動かしたのです。話し合った事柄の背後に、内容とは全く関係のない失望、落胆を感じ取っていたのです。それがあまりに強烈だったので彼に手紙を書きました。「私が言おうとしていることは誤りかもしれないが、もしそうだったらこの手紙はゴミ箱にほうりこんでくれたまえ。実は、受話器を置い途端、君が失望と苦痛を味わっているように聞こえてきたのだ。本当に絶望していると。」そして、私が彼に対して感じていること、彼の状況に関して役立つと思われる私自身の気持ちを書きました。少々馬鹿げているかもしれないとの不安を抱いて投稿しました。すぐに返信を受け取りました。彼は、誰かが彼を聴き取ったことを喜んでいました。私が彼の声の調子から聞き取ったことは正しかったのです。私は真の彼を聞き取り、真のコミュニケーションを持てたことが嬉しく思われました。この例のように、言葉がある事柄を伝え、声の調子が全く別のことを伝えていることは多いものです。
(中略)
私は次のような空想をします。地下牢に閉じ込められたまま、「聞こえる人はいませんか?」「誰かそこにいませんか?」とモールス信号を打ち続けていて、ある日ついに「はい」というかすかな応答を聞いたという空想です。その応答が彼を孤独から救いだすのです。彼は再び人間となるのです。今日、数えきれない人々が孤独な牢の中で生きています。皆さんがその牢から流れてくるかすかな信号を鋭く聞きとめてやらなければ、外の世界の存在を知らない人々がいるのです。

おすすめの本(1)

独断と偏見でいろいろな書籍をおすすめ
水田が独自の(独特の)視点で書籍をご紹介いたします。特に、広くいろいろな仕事に役立ちそうな本を紹介しようと思います。まずは私の本の選び方について述べておきます。
 
 本の買い方が変った
いろいろ勉強した結果もっとも私の行動で変化したことは、本の買い方です。出版業界の裏側を知ってしまうとなかなか本を買う気になりませんし選び方が慎重になります。本屋で本を眺めることはしますが、本屋では買いません。Amazonの口コミなどをチェックしてからしか買いません。内容の薄い本であれば、口コミを見るだけでほとんど内容が分かってしまいますので買う必要がありません。またおせっかいな口コミでは「この本だったら○○という本のほうが良い」というものもありますので、口コミだけでほしい本が見つかりますし、立ち読みより効率的です。以下、私の本の選び方の特徴を述べますが特にこの方法を推奨しているわけではありませんのであしからず。
 
 こういう本は買わない

       本をいっぱい書いている有名人の本

ほんの数時間の取材だけをもとに出版業者が書いている場合があります。内容が薄いですし同著の他書籍と内容がほとんど同じ場合も有ります。ただし有名になる前の初期の本には良書があったりします。(勝間さんの会計の本など)

       新しくて売れている本

はずれが多いです。たまにあたりもありますが、売れている本は口コミも多く出ますので、買わなくても良い場合が多いです。

       タイトルが「○○を買え」など断定的

販売戦略を考えすぎた断定的なタイトルが付いた本は中身が独善的で客観性にかけたものが多いです。「スタバではグランデを買え」という本がありましたが、内容はこのタイトルと関係ありませんでした。

       経営者自身が経営について語った本

前のコラムにも書きましたが多くの場合、成功とその要因の因果関係が整理されていません。また自社のことしか書いてない場合が多いので、必然と偶然の区別もできないのであまり有益でない場合が多いようです。ただ、経営者が自分の業界全体について語った本は、説得力があり、よい本の場合があります。
 
 こういう本を買う
・ 知っている人の本
特に授業や講演を聞いた人の本は買いやすいです。その人がどのような経験をもっていてこの記述になったか分かるので、ここの記述は重いとか、ここの記述は素人発言だということが分かります。講演者なら講演の復習にもなりますし。もちろん、講演がつまらなかったら買いません。また、web上で記事を書いていたり、ブログ記事があったり、twitterで知っている人も同様です。

       日本能率協会マネジメントセンターの本

ふくろうのマークの出版社で、実践的な本が多いです。内容勝負の本が多く客観的なものが多いです。(そのためあんまり儲かっていないようですが・・)

       大学学部生向けの教科書的な本

参考文献が多く内容が偏ってなくてよいです。専門分野外の勉強を基礎から行う場合に、特に有効だと思います。私は政治学の本を持っています。

       引用されている本

他の本や、web上の記事、ブログなどが好意的に引用している本は、その分野の教科書的な本であることが多く良書も多いです。ただし、実は広告だったり、アフィリエイトだったりする場合も有るので注意が必要です。

       本を紹介する本

古典的ですが、結構役に立ったりします。
 
 私の本棚
私は根本的に読書が嫌いなので、あまり多くの本は持っていません。下記のリストでだいたい網羅しています。ご参考までに。
 
★★ TOP POINT ★★
最近発売されたビジネス書10冊に関して、1冊を4ページに要約して紹介する月刊誌です。初めの1ページがさらに要約されたもの、残り3ページで要約となります。さらには目次には各書籍のさらに要約されたもののさらに要約版があり、興味があれば要約版を読むという使い方ができます。目次を見ると最近注目されているビジネス書がどれであるかも分かりますし、興味があれば1ページ番の要約をよみ、さらに興味があれば3ページの要約を読むという読み方ができ、効率的です。毎月1~2冊は新しい本ではなく古典的名著が紹介されます。名著が要約で読めるのはとても助かります。
 
 毎月「これは」と思える本は10冊中、0~1冊
毎月10冊紹介されますが、「これは」と思い1ページ番の要約を読むのは0~1冊です。3ページのフルバージョンの要約まだたどり着くことはたまにしかありません。月に一度届くTOP POINTですが、15分以上読むのに時間がかかったことは無いと思います。
 
 結局買うまでには至っていない
TOP POINTを買い始めて半年ぐらいになりますが、まだ購入に至った本はございません。これは要約がすばらしいから買う必要がなくなっているのか、それとも、いい本が紹介されていないのか、それはまだ分かりません。いずれにせよ、購読を続けていこうと思います。
 
★★ 図解 コーチングマネジメント ★★
先生(ティーチャー)とコーチは違います。ティーチャーは自分が出来ることを教えます。自分のやり方を教え、自分やり方と同じことを相手にできるようにさせます。コーチは自分が出来ないことを相手にできるようにしてあげます。例えば、水泳のオリンピック選手のコーチは選手より早く泳げるわけではありませんが、選手をコーチして世界記録を出せるようにします。コーチは自分の泳ぎ方を選手ができるようにしているわけではありません。選手の潜在能力を引き出すことを行っているのです。この本は、ビジネスの世界においてのコーチングの方法を可能な限り簡素化して解説を試みたものです。
 
 傾聴はすべての基礎
ビジネスでの人材育成においては、ティーチングとコーチングの両方が必要です。しかし、新しかったり難しかったりする問題をとかせる場合は、ティーチングは有効ではありませんので、どうしてもコーチングの出番が多くなります。コーチにとってもっとも重要な能力は聞くことです。この聞くことは何も考えずに聞くことと区別するために「聴く」とか「傾聴」という言葉を使うことがあります。相手が話しやすく聴いてあげる、相手の能力を引き出すように聴いてあげる、相手が自分も気付いていない解決策を見つけられるように聴いてあげる、相手が目的を間違えないように聴いてあげる、こんな聴き方が「傾聴」です。そのやり方がこの本に書かれています。
 実はこの「傾聴」、カウンセラーやファシリテーター、もっと言えばアサーティブに振舞うことにとっても重要な能力であり、あらゆる分野に属している人に必要な基本的かつ根源的な能力であるといえます。「傾聴」さえできればあらゆる分野で活躍できるといってもおおげさではないでしょう。これらについては、他の書籍を紹介するさいにも述べさせていただきます。
 
 訓練しないと実践は難しい
ただこの「傾聴」、訓練しないとできるようになりません。私は以前通っていた診断士養成課程では、傾聴が必要な基礎能力という考えの下、入学直後の初めの8時間くらい、この訓練を行いました。訓練をする前は「では初めに話を聞く練習を8時間します」といわれてこの学校は頭がおかしいじゃないかと思いましたが、終わってみれば奥が深すぎて「8時間では全然足りなかった」という感想を持ちました。機会があれば30時間ぐらい訓練したいと思っています。
 ちなみに私の家内は1月に突然「産業カウンセラー養成講座」に通うと言い出して、4月から半年間、毎週土曜日を使って「傾聴」の訓練を受け始めました。全部で120時間くらいの訓練ですので、どのくらい上達するかみものです。

おすすめの本(2)

★★ 使える理論の使い方の論理 ★★
マーケティングの学術研究は近年急速な方向転換が行われつつあります。そのため論文だといろいろあるのですが、本になるとなかなか良いものがありません。この本も一般的には手に入れづらい本なのですが、最近のマーケティングの考え方を述べている珍しい本です。
 
 実務者が書いた本
著者は実際にBtoBマーケティングを行っている実務家です。マーケティングをどのように行えば成果が出るのかを考えていくうち学術界から学ぼうとし始めました。しかしさまざまな説が乱立する中で、良さそうなものを選ぶのは容易ではありませんでした。そこでとりあえず“共感できるもの”として選んできたのが明治大学の上原・大友理論でした。その理論をどのように現場で実践し、どんな成功と失敗があったのかが書かれています。学者でなく実務家が実際に行ったマーケティングをもとに書かれていますので、背景知識が無くても読めるようになっています。著者の講演を実際に聞いたことがあるのですが、かなり熱い人です。
 
 顧客への価値提供
顧客への価値提供、顧客が抱えている問題解決、もっと言えば顧客の願望の実現。これらを基本的な考えとしています。ただし、顧客は自分達がどのような価値が欲しいのか、どうやったら問題が解決するのか、もっと言えば何が問題なのか何が願望なのかが分かっていない場合も多いのです。なので、顧客自身も気付いていない願望を分析して解決策を提示してあげること、それが、全ての根源的なものであり、それを外してしまうと他の技術的なこと、販売チャネルだったり価格設定だったり品質だったりとかでは挽回できないということを述べています。実は、私がこれまでのコラムで書いてきたマーケティング的なことはこの本が元ネタになっているものばかりなんです。
 
ハーバード大学が月刊で出版しているビジネスに関する論文集の日本語版です。ハーバード大ではない人の論文も積極的に掲載していて、ハーバードなどの一流ビジネススクールを一貫して批判しているミンツバーグの論文などもキチンと掲載していることも好感が持てます。もっとすごいのはビジネススクールを批判した特集号もあり、自己批判精神を忘れない彼らを見ていると、ビジネススクールの未来もそんなに暗くはないなと思いました。
 
 最先端な考え方が垣間見られる
近年の市場環境の変化の速さは凄まじいものがあります。いろんな人たちが「今ってこんな感じだよね」と考え始めてから一般書籍になるまでには結構時間がかかります。そうこうしているうちに「違う今」が来てしまいます。5年前とならば一昔。5年前と同じ働き方をしていたとすれば100%時代に取り残されています。この本はいろんな人が思考しはじめてから比較的早く文章化されます。逆に言えばチャレンジングなものが多いので、ハズレも多いです。90%以上ハズレ記事だと思います。ただ、時々ある「なるほど」と思える記事は、先進的で、時代においていかれないためにとても有用です。
 
 使いこなしが難しいかもしれない
全ての記事に「なるほど」と思ってしまう人には向かないかもしれません。学者達の主張を見当違いかどうか見極める能力が読者に必要です。その能力があることが前提に書かれています。私も正直、何なのか良く分からない論文もけっこうあります。それを「良いかどうか良く分からない」と認めほっとくことができないと、この本を読むのは逆効果かもしれません。
 
★★ メンタルヘルス・マネジメント検定試験公式テキスト 2種 ★★
資格試験の勉強用の本です。メンタルヘルス・マネジメントというのは、簡単に言えば、働く人たちのこころが健康であるようにするための活動です。この検定は1種、2種、3種がございますが、3種は自分のこころを健康に保つための知識、2種が直属の部下がこころの健康をたもつための知識、1種は会社全体の従業員のこころの健康をたもつための知識です。2種と3種はマークシートのみでキチンと勉強すればほぼ合格できる試験ですのでご興味ある方は是非受けてみてください。ちなみに、試験会場には会社から強制的に受けさせられた中間管理職と思われる方が多くいらっしゃいます。中間管理職に高度な管理能力を求める会社は、この資格を必須化しているようで、とれないと管理職になれない会社もあるのでしょう。
 
 結局はマネジメント全般に関わってくる
良い精神状態で人を働かせるためには、人のマネジメントの基本が分かってないとできません。この本の良いところは、最低限知っていなければならない管理職のための知識が網羅されています。逆に、メンタルヘルス分野以外で、管理職に必要な知識が網羅された分野を、私はみたことがありません。ただ、どうでもよいこと(保健所の所轄官庁など)も丁寧に書かれていたりするので、そのあたりを適宜、読み飛ばして読むことが必要です。(試験に合格するためにはここも暗記する必要がありますが。)
 
 しかしながら十分ではない
必要最低限なことを網羅しているとはいえ、知っていることと実践できることは違いますし、もっと知る必要がある知識もあります。この本は「これを知らないといくらなんでもまずい」というレベルのもので、管理職がうまく出来るかどうかはもっと知識と訓練が必要になることは間違いないと思われます。
 
★★ マーケティングリサーチ・ハンドブック ★★
顧客がどんなことを望んでいるのか?もっと言えば、顧客は誰なのか?企業が顧客へどんな価値を提供しようか考えるときの調査をマーケティングリサーチとよびます。この本では具体的な調査手法を述べています。代表的な定量分析にはアンケートをとるにはどうしたらよいか?アンケート項目はどうやって決めればよいか?といったことが書かれています。アンケートひとつをとってもとても奥が深いことが良く分かります。
 
 定性調査が重要
アンケートのような定量調査も重要ですが、定量調査は調べられる範囲が狭く、定量がゆえに逆に結果がハッキリしなかったり誤解を招く結果に終わったりします。また、設計がうまくいかなかった場合(選択肢が不適切で答えがその他に集中するなど)使い物にならないなど欠点も多くあります。実は、マーケティングリサーチで本当に重要なのは定性分析のほうです。こちらは行うにはかなりの労力が必要ですが、有益な思わぬ情報が手に入る場合が多いです。集団インタービューやディスカッションをさせるなどの手法が良く用いられます。キチンとしたマーケティングリサーチは必ず定性調査が伴っています。以前紹介した、自動車の顧客分析も定量・定性両方の調査を行っていました。http://www.jama.or.jp/lib/invest_analysis/four-wheeled.html
 
 最強のリサーチは営業の人がその場で聞きだすこと
とはいえもっとも強力な調査は営業の人がその場で聞きだすことです。世の中にはひたすら客の話を聞く営業という戦略もあるようです。現場で何を聞くのか、聞いた情報をどのように蓄積するのか、自称熱血営業だけが売りの100年以上続く老舗商社の営業マンの話を聞いたことがありますが、まさに現場で聞いた情報のデータベース化が命綱なのだそうです。

おすすめの本(3)

★★ 心の見える企業―ベンチャー企業とバルーン型組織への誘い ★★
この本は著者の授業を受ける機会があったことから読みました。基本的な経営学の本ですが、ベンチャー企業の、特に組織的な部分にやや焦点をあてているのが特徴です。
 
 ベンチャー企業は小さい企業とは限らない
小さい組織でも官僚的な組織はあるし、大企業でもベンチャースピリットにあふれた企業もあるといいます。本書では、GEやソニーなども例に取り上げ、一概に、組織の大小がベンチャー性を決めているわけではないことを解説しています。また、いわいる経営学の領域にとどまらず、リッカートの組織論や、リーダーシップ論、ビジョンの有用性について説いています。
 
 組織図の描き方がいろいろ出てくる
会社によっていろいろな書き方があることが分かります。組織図をピラミッド型に描いてしまうだけで、社員の意識がそのようになってしまう、ということもあるかもしれません。逆三角形型、放射線状に広がっているもの、著者が提案する風船をいっぱい書く方法、多種多様な書き方は、その会社の文化を示しているのかもしれません。ミンツバーグも従来型の組織図では分類できないような会社が多数あることを述べています。なかなか奥深いです。
 
★★ 問題解決ファシリテーター (1/3)  ★★
高度な問題解決の手法として、ファシリテーションを取り上げ、その技術的な解説をしています。ファシリテーション・アプローチとはいったい何なのか、本書の一番初めに示された例を見るのが一番分かりやすいと思います。この例を今週から3回にわたって紹介します。
 
 ソフトアプローチ、ハードアプローチ、ファシリテーション
ここでは3つのアプローチの例が示されています。ソフトアプローチ(妥協・調整的)、ハードアプローチ(説得・譲歩的)、ファシリテーションアプローチ(協働・創造的)です。ソフト・ハードは悪い例として、ファシリテーションは良い例としてあげられています。
ここでの例での状況は以下の通りです。電子機器メーカーで新製品を発売したところ、当初は売れ行きが好調であった。ところが、急にブレーキがかかり、在庫が予定の2倍の規模に膨れ上がってしまった。そこで、当事者である販売部長、工場長、そして仲介役の経営管理部長の3社が集まって打開策を話し合うことになった。まず、悪い例としてソフトアプローチを紹介します。
 
   [悪い例] ソフトアプローチ (妥協・調整的)
 
工場長: やれやれ、ようやく増産の態勢が整ってきたばかりでどんな顔をして部下に減産を指示したらいいものか。部品によっては6ヶ月先まで発注しているものもあるしなぁ・・・。
 
販売部長: ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、そこを何とかお願いしますよ。今さら売れないものを作ってもみんなが困りますから。
 
経営管理部長: まあどちらも事情がおありでしょうから、ここは腹を割って話をしましょう。そんな先まで部品が手配済みでは困りますね。もう少しどうにかならないでしょうか。
 
工場長: 注文をキャンセルして、部品メーカーを泣かせるしかありませんね。そうしろとおっしゃるのなら、やれるだけやってみますが、キャンセルできなかった分はしっかり作らせてもらいますからね。
 
経営管理部長: せっかく工場サイドがああ言ってくれているのですから、販売部門のほうでももう少し踏ん張ってくれませんかね。
 
販売部長: 強力なライバルの登場で、状況が一変してしまったのですよ。第一線では精一杯頑張っているのですが、それでも限界があります。
 
経営管理部長: ですから、そこを何とかできないか、お願いしているんじゃありませんか。
 
販売部長: 分かりました。そちらの立場もあるでしょうから、今回は思い切って破格の条件を出して有力な小売店に引き取ってもらいましょう。それで品物が動かなくても恨みっこなしですよ。
 
経営管理部長: そういってくれると私の顔も立ちます。じゃあ、お互い良く話し合って、とにかくみんなで解決にむけて頑張りましょう。
 
 問題解決ファシリテーター(2/3)
別の悪い例として、ハードアプローチを紹介します。
 
[悪い例] ハードアプローチ(説得・譲歩的)
 
工場長: ようやく増産の態勢が整ったと思ったら減産しろですって。そんな身勝手な話は到底受けられませんね。発注した部品は全部製品にしてお届けしますから、販売部門の責任で処理してください。
 
販売部長: 予想を超えるライバルの登場で市況が一変してしまったのだから、何も販売のせいばかりではありません。そもそも、生産側がこういう変動に機敏に対応できないから、いつもしわ寄せが在庫となって表れるのじゃありませんか。
 
経営管理部長: まあまあ、まずはお互いの責任範囲を確認することから始めましょう。いつもはどのようなルールで販売部門は工場に注文を出しているのですか。
 
販売部長: 6ヶ月先までの月単位の注文を毎月見直しています。その時に、3ヶ月目までを確定させ、4ヶ月目からは自由に変更できる取り決めになっています。
 
経営管理部長: ということは、事情がどうであれ3ヶ月目までは注文を確定してしまっているのですね。それを今さら要らないというのは筋が通りません。その分は販売部門の責任で処分してもらわなければ困ります。
 
販売部長: 在庫が2ヶ月もある上に、さらに3ヶ月分を買えというのですか。分かりましたよ、安値でたたかれて市場が荒れても知りませんよ。その代わり、これ以上は1台たりとも要りませんからね。
 
工場長: それは困りますよ。だって、リードタイムの長い部品は既に6ヶ月先まで発注しているのですから。そうしないと急な増産への対応が間に合わないのは良くご存知のはずでしょう。
 
経営管理部長: いや、それはおかしいですね。先ほどのルールによると4ヶ月目以降のオーダーは確定ではありませんから。工場側が見込み発注をしたのなら、そこはキャンセルするなり、破棄するなり、そちらの責任で処理してもらわないと理屈に合いません。
 
 問題解決ファシリテーター(3/3)
最終回は良い例としてファシリテーションアプローチを紹介します。
 
[良い例] ファシリテーションアプローチ(協働・創造的)
 
経営管理部長: 責任論は後でゆっくりやるとして、お互いどうやったら問題が解決できるかに絞って議論しましょう。まず販売サイドにお聞きしますが、何が売れ行きに悪影響を与えたのでしょうか。
 
販売部長: 当初はとても好調に推移していたのですが、予想を超える強力なライバル商品が表れ、完全にシェアを食われてしまったのです。
 
経営管理部長: 全世界のすべてのチャネルでそうなってしまったのですか。
 
販売部長: 日本はもう手遅れで、どうしようもありませんね。米国もほとんどやられてしまいましたが、一部に我々が強いチャネルが残っています。欧州は、まだライバル商品が販売されていなくて、多少の時間的な余裕があります。
 
工場長: 欧州がまだいけそうなら、日本向け製品のパッケージを入れ替えて、欧州むけに仕立てましょうか。ラインの人間を遊ばせておくくらいなら、少しでも在庫をはくために、徹夜してでもやらせますよ。
 
経営管理部長: それは名案ですね。すぐにやりましょう。ところで、ここで生産を打ち切ったとしたら、どれくらいの部品が余ってしまいますか。
 
工場長: 確注分の3ヶ月が掃けたとしても、見込み発注してしまった部品がさらに3ヶ月分残っています。いまさらキャンセルするわけにもいかず、このままでは廃棄するしかありません。
 
経営管理部長: それは最後の手段ですね。他の製品に転用するとか、別の製品に仕立てるとか、販売部門で何かアイデアが出せませんか。
 
販売部長: だったら、その部品を使って、機能を削ぎ落とした廉価版が作れませんか。価格を一段下げれば、チャネルによってはポジションを取り戻すことが出来るかもしれません。
 
経営管理部長: それは検討してみる価値がありますね。大至急、どこまで機能とコストを削減できるか両者でつめてください。
 
 協働・創造的な解決手法
このような協働・創造的な解決手法は、激しい外部環境の変動に対応するのに向いた手法だといわれています。(逆に言えば、外部環境が安定的な場合は必要ないとも言われています。)この例でも、前週までの例では、新たな解決方法を見出せていませんが、今週の議論では前向きな新たな解決方法を見いたしています。運命の分かれ道は、経営管理部長の「質問」です。決して工場長や販売部長の能力ではありません。まさに、「どのように人の話を聴くか」で、これだけ結果が変ってしまうのです。
 

書籍「現代政治学」の感想5: 政党と活動資金

書籍「現代政治学」(http://www.amazon.co.jp/dp/4641123314/)を読んで感じたことを
取りとめもなく書いています。今回が最終回です。

政党は社会のさまざまな利益や意見を集約し、つまりインプットの集約を行い、
国会や政府の政策過程・決定に反映させようとする、つまり演算を行わせる組織だ。
政党は政府ではない。社会と政府をつないでいる。

社会における政党の役割は、与党であれば、政府に大臣を送り込み
政治そのものを行う、つまり政党と政府は近いものとなる。
野党の場合は、さらなる議席数獲得を目指し、与党となるべく、
準備をする野党もあれば、一貫した社会利益をし続ける野党もある。
いずれにせよ野党は政府でもなければ企業でもない組織である。

与党になる準備をする野党は特に、与党と同じくらいの
政策分析機能や、法律案の作成、社会がどうなっているかの調査など、
与党と同じような機能を持ち、いつでも政府としての能力を発揮できる必要がある。
これは社会にとって政権を選択できるという価値を提供し
つまり、現在の政府がだめなら取り換えられるという競争原理を供給するため、
社会的な便益は絶大である。
企業にとっては、企業がよい財やサービスを効率的に提供し社会の効率化に貢献できなければ、
競争原理によって他の企業に顧客を奪われるという競争原理があるため、
日々進化し続けられる。これと同じような競争原理が政府にも与えられ、
より便益の高い政治が行われる原動力となる。

というわけで、与党はもちろん、野党も社会にとって有用であり、
そういう意味では何らかの形で活動を維持するお金が入ってくるべきである。

しかし、どのようにお金を集めるべきであるかという問いは大変難しい。

単純に考えれば、その政党を支持する人たちがお金を出し合って維持すべきである。

しかしながら、特に企業からの献金などは他の部分の公正な競争を阻害する場合がある。
言うまでもなく、特定の企業が有利な入札や法律を作ってしまう場合である。
このようなことが起きてしまうと、企業間の公正な競争が阻害され
むしろ逆に社会の効率性を落としてしまう場合がある。
また、お金持ちが支持する政党が有利という事態になれば、
お金持ちが自分たちだけの利益を考え出したり、お金持ちの考えが政策に反映される
ウエイトが高まってしまうとインプットの多様性を失い危険である。

じゃあ、税金でねん出すべきかといえば、これはこれで問題がある。
政府が政党に活動資金を出すとなれば、そもそも野党は
与党が決める配分でお金を受け取ることとなり、公正な議論を阻害する要因になりかねない。
つまり、配分を減らされるプレッシャーが発生してしまう。
たとえば、比例代表の獲得票数で配分するなど、
よっぽど機械的な方法でやらない限りは政党間の公正な競争を阻害するだろう。
ただ比例代表の獲得票数で配分する方法のみだと、議席を獲得するまでは
どうするのか?という問題も発生する。

政党はどのようにお金を集めるべきか?
どのような集金方法なら、政党間の競争も、そのほか企業間などの競争も阻害せず
社会の便益を増すことができるのか、
これはNPO同士の公正な競争方法以上に、難しい問題であり、
まだ人類が解決していない、社会制度の最重要な問題の一つと言って過言ではないだろう。

書籍「現代政治学」の感想4: グローバル・プログレマティーク

書籍「現代政治学」(http://www.amazon.co.jp/dp/4641123314/)を読んで感じたことを
取りとめもなく書いています。

グローバル・プログレティークというのは、つまり、
世界的な人類共通の課題であり、一カ国が取り組んでも解決しない問題のこと。
政治においてもこれを考慮して、国際政治について考えないといけない
時代がやってきたということだと思う。
国際感覚というのはあらゆる分野で必要になってきたのだろう。
(ちなみに国際感覚と外国語が話せるかどうかは全然違う。
 多いのが英語が堪能でアメリカしか知らない、国際感覚がない人。
 また、英語ができる人の中には英語が通じない国に行きたがらず
 結局国際感覚が身に付かない人も少なくない。
 もちろん英語がうまくてアメリカしか行ったことないけど国際感覚抜群の人や
 一度も海外に行ってないのに国際感覚がある人も多い。)

この本では、3つあげている。
 核、飢餓、環境
もちろんこの3つだけではない。また、グローバル・プログレティークは
国以外にも国連もそうだし、NGO多国籍企業が解決に尽力する場合も多く、
政府だけが取り組んでいるわけではない。
ある意味国際政治は政府に限らず、NGO多国籍企業も含んで
みんなで問題解決方法を考え、問題を解決していくことであると言える。

核の問題、環境の問題も思うところがたくさんあるが、ここでは、
飢餓の問題だけ書いておこうと思う。なぜなら、意外な発見が多かったのだ。

まず、世界の食糧生産と、世界の人口からして必要な食糧は生産量のほうがかなり多い。
つまり世界では食糧が余っているのだ。にも関わらず十分な食糧が手に入らない人がたくさんいる。
さまざまな原因があるだろうがこの本では、根本原因として、内外格差を取り上げている。
まず外の格差であるが、これは先進国と発展途上国の差である。
発展途上国内は物価が安く、食糧を買うのに大金を払えない。
ところが先進国は物価が高く相対的にお金を持っているので、
食糧を買うのに金をかけることができる。
食糧を売る側としては先進国に売ったほうが高く売れる可能性があり、
結果、食糧の価格が上昇し先進国の人たちだけが買えるという事が起こる。
生産地が発展途上国であったとしてもだ。
食糧の多くは先物市場が存在し、投資家が取引を行っている。
まさしく、先進国の投機が発展途上国の飢餓を生んでいる一因にもなっている。
売買価格をどのように決めるべきかもう一度、考え直した方が良いかもしれないし、
なかなかどうすればよいか難しいが、シミュレーションも含めて議論すべきだろう。

飢餓に苦しんでいるのに外国に食糧を売るというのはどういうことであろうか?
これは国内の格差である。すなわち、
田畑を耕作している人とできた食糧の所有者が違うのである。
そう、地主と、地主に雇われた労働者である。
自分は田畑を耕して食糧を作っているのに飢餓に苦しんでいるのである。
地主は、国内だろうが国外だろうが高く買ってくれるほうに売る。
ただ、それだけである。土地を持っていないものは数としては圧倒的に多く、
地主側が賃金をかなり自由に決めている。
この格差が、食糧を先進国へ流出させている一要因である。

これに関してはこの本は、珍しく解決策を意見している。
学術的な本なので、淡々と事実を述べることが多かったこの本が、
主張を繰り広げ始めたので驚いた。それは農地改革である。
すなわち、地主から強制的に土地を取り上げ、労働者に渡すのである。
これは戦後すぐの日本でも行われた。そのおかげで、これだけ格差の少ない、
平和な世界が展開されたといっても過言ではないだろう。
これがなかったら、日本でも大規模なスラム街がそこらじゅうに存在する国になっていたかも知れなし。

農地改革は客観的に見ればやるべきであることは分かるのだが、
実際には地主が政治的な権力も持っていることが多くなかなか実現が難しい。
しかし、これが世界中で行われないと飢餓の問題は終わらない。

というのも飢餓で苦しむ貧しい人々だからこそ、子供を多く作る必要があり、
ますます貧しい人が増えていくからである。
貧しい人たちは一家を支えるために多くの労働力が必要となるため、
子供を多く作り学校に行かせずに子供のころから働かせる。
学校に行ってないので、他の職業に付くことも難しく、またそれを繰り返す。
これは、貧しいからこそ人口増加が起こるのであって、
人口が増えているから貧しくなったのではない。
地主たちに対して労働者はどんどん増えていくので、
給与の決定権がますます地主にうつり、格差が広がっていくのである。

では、先進国は何をすれば良いのだろうか?
良く食糧支援というものが行われているがこれは逆効果であると指摘している。
無料の食糧が流入してくると地元で作られた食糧が価値がなくなっていき、
ますます地元で作った食糧が外国へ流出したり、
農業自体をやめてしまうことを助長するからである。
安易で長期的な食糧支援は、それに依存してしまうため、
飢餓を助長するだけである。
(もちろん災害時などの一時的な支援は絶対に必要である)

どのようなことでもそうだが、安易に助けてあげようという行動が
発展途上国を逆に苦しめる場合がある。
自己満足的な支援ではなく、先進国は、自分達は、
一体何をすればいいのか、部分的な視点ではなく、
全体感を持った、一貫性のある行動が必要だろう。